切絵 広重・国芳・豊国_東海道五十三對 50_國芳_水口

昔 高嶋といふ所に百姓の娘大井子(おほゐこ)といふ大力の女あり 力ある事を恥て 常にハ出さず
農業の間にハ馬を牽(ひき) 旅人(りょじん)を乗(のせ)て活業(なりわい)とす 折節 田に水をまかする頃
村人大井子と水の事を論じ 女と侮り 彼が田へ水のかゝらぬやうにせしかバ 大井子憤りて ある夜六七尺四方なる石を持来り
かの水口(みずくち)に置けり 夜明て村人おどろき数人にて取んとすれど 中々動ず悩しに 大井子が仕業ときゝ
詮方なく種々(いろいろ)侘びけるゆへ 彼大石をかるがると引退(ひきの)けり 大力におそれて水論ハ止(やミ)けるとぞ
今に此地に水口石(ミなくちいし)とて残りける也